月刊 原田教正
7月
「ベルリン、そして葉山」
Monthly Kazumasa
July
/ベルリン、そして葉山
7月、東京での展覧会が終わった。その翌日、用事を済ませ原宿から渋谷駅まで遠回りして歩く。今年最初の台風が関東をかすめ、3週間を振り返るに心地いい風が吹いていた。額装した写真は、10cmにも満たない小さなものばかり。印画紙の中に収縮された光と時間は質量を帯びる。そこに吸い込まれるように人々が見入る姿を、ある人は、「まるで星をみているようだった」と言った。目の前にある光景が、どこか遠くからやってきたことのようだと。とても腑に落ちる言葉だった。
思い返せば、写真だけを頼りに生きてきた。それは生きる手段や表現と言うより、写真と印画紙の中に私自身が生きている事実と確証を得ようと試みる、その繰り返しだった。本質的には、私はどこにも存在していないし、社会や誰の中にもいない。私はただ時間の中にいるだけだ。私の目の前にはただ時間があるだけだ。そして光と時間は、いつも決まってどんな出来事よりも前にどこか遠くからやってくる。
光は、いったい何を照らしているのか。写真は、いったい何を写せるのか。時間は、写真にとっての何なのか。そしてそれは、どこから来て、どこに向かい、現代における何なのか。私にとってカメラという装置を持つには、十分過ぎる疑問だ。そのことを考えていると、なぜだかとても気が安らぎ、幸福な何かを感じる。
ー 原田教正
H450mm x W350mm x D40mm
Inkjet
Semi glossy paper
原田教正 | Kazumasa Harada
1992年東京生まれ。2016年に武蔵野美術大学映像学科卒業後はコマーシャルフォトグラファーとして活動する傍ら、積極的に展覧会や写真集の制作を続けてきた。2020年には初の写真集『Water Memory』を刊行し、その後『An Anticipation』『Obscure Fruits』などを刊行。2023年にはベルリンでの滞在制作を経て『時間の園丁』(南青山information)での展示や写真集『My origin photographs』を新たに刊行。2025年9月から本格的に制作拠点をベルリンに移す。
https://www.kazumasaharada.com/